兆候。

今にして思えば病気の兆候はいくつもあったのだ。
通勤電車に乗っている時に急に気分が悪くなり、だんだん視界が狭くなっていって、しまいには完全に目の前が真っ暗になって何も見えなくなったということがあった。その時はなんとか電車を降りそばにいた駅員さんに声をかけて、駅長室まで連れて行ってもらったのだが、駅長室で横になってしばらくするまでずっと目の前は真っ暗で何も見えないままだった。
それから何度か同じようなことが起こり、しばらくの間通勤電車に乗るのが怖くなり、気分が悪くなったらいつでもすぐに降りられる各駅停車の電車しか乗れなくなった。いわゆるパニック障害だ。でも僕はずっと後になるまでそれがパニック障害というものだとは知らなかった。ただの貧血だと思っていた。
会社に入社した1年目、体重が8Kg減った。慣れない環境でずっと不安感で胸がいっぱいで食欲がなく、夕食を食べないことがしばしばあった。仕事もハードでほとんど毎日終電で帰っていた。休日はほとんど寝て過ごした。ずっと疲れていた。しかし、その翌年にはすっかり仕事にも慣れ、元の体重に戻った。こういうことも世の中にはよくあることなのだろうと思っていた。
十二指腸潰瘍になったこともあった。健康診断でひっかかって、しばらく薬を飲んでいた。でもそれも働いている人にはよくある病気だと医者が言っていたので、そんなものなのだと深刻には考えてはいなかった。
他にも細かいことをあげていけば数え切れないほどサインは出ていた。ただずっとそれを見過ごしていただけ。それで病気になった。